おけら長屋が面白いのは登場人物が天晴れだから。
登場人物について好き勝手に書いてみます。
書いたりなおしたり忙しないかと思いますがご容赦を~!
なんとか上手に纏めたいもんですが…おつむてんてんなので難しい。
多吉
いろいろあって八五郎が預かる事になっておけら長屋と縁が出来た孤児。
朝起きたら両親(後妻と父親)が自分を置いて長屋を出て行ったというのだから結構壮絶。
そんなもんだからか荒んで元居た長屋の住人からは疎まれていたのだが、おけらの住人によって徐々に心を開いていく事になる。
ある日、とある場所にて地面に落書きをしていた所、多吉に非は無いのに武士に蹴られる。
それを受け、多吉が八五郎おじちゃんの教えを胸にとった行動が、後に騒動を招くこととなってしまう。
ある分野ではプロが驚く程の才能の持ち主と判明し、亡き母と多吉との思い出が道を彼の切り開く事となった。
勘吉といい多吉といい…おけら長屋に引き寄せられるちびっ子は根が素直でかわゆい。
多吉もいつか再登場して欲しいものである。
おけら長屋
弥太郎
徳兵衛の遠縁にあたる二十歳の若造。
草履屋の跡取りでありながら博徒に憧れ家を飛び出したりする二十歳…
一言で言えば馬鹿息子である。
実の親に修行という名目での厄介払いをされておけら長屋へやって来た。
当初は結構な問題児かと思われたが、おけら長屋の効力か万造の人柄なのか10巻最終話の【おくりび】ではすっかり長屋に溶け込んでおり、
皆の前で感動のあまり失禁するという捨て身の一撃をかましつつも、最後にはしっかり感動まで与えてくれた。
今後も笑いに一役買ってくれそうな人物である。
第一話、さかいめ では金太への接し方を通じて万松の心意気を知るための重要な役割を果たしたと言える。
金太の忘れっぽさを知り、万年金欠の万松ならばこれまでにやっていてもおかしくない事を弥太郎は実行するのだが…
おかげで万松はこれまで一度も金太に対してあのような真似はしていない事に気付かせてくれる。
なるほど、扱いは酷いものに思えたが金太をきちんと一人の人間として接しているなんて…
二人とも人間が出来ているじゃねぇか…いやまてよ…多分…恐らくしていないと思うんだけど自信が無い。
弥太郎の汚れ役も万松の日頃の行いの前では報われないのである。
弥太郎さん、第十一巻、といちてで今度は十手持ちに憧れちゃった。
博徒に憧れ火消しに憧れ今後は十手もちかぁ…頑張って自分探し中のようである。
でも僕は探す前に己を知るべきだと思うの!
さてさて、屁理屈は天下一品なこの男、お笑い枠でレギュラー枠をゲットした様子であるが次は何に憧れちゃうのだろう?
僕は時々おけら長屋に顔を見せる黒田三十郎が有力だとみています。
万造
米屋の奉公人。9巻の時点で27歳。
捨て子だった過去があり、10歳まで下谷山崎町の長屋にて鋳掛職人の源吉と暮らした。
正しい江戸っ子像は知らないが、江戸っ子といえばこの男というイメージを僕に与えてしまった人物。
飲む打つ買うは当たり前、金は持ってるやつが出せばいいなんて考えなので生活が安定していない。
だいたいの騒動は彼と松吉の参加によって引き起こされる。
万松は災いの元、万松の勇み足、等、大家の徳兵衛に数々の格言を生み出されている程に色々しでかした様子。
幼少時からサボり上手であったためか、今でも字が読めない。
それでも常人では思いつかない、また思いついてもやらない策を練りだし、事態を解決に導く事が少なくない。
侮れない男である。
普段は威勢がいいが、実は優しい男。
捨て子だった事も有り、家族愛に人一倍の憧れを抱いている様子。
第二巻【まよいご】では迷子だった勘吉を家に送り届けた際、親の対応に衝撃を受けて涙を流す。
第三巻【ふろしき】では家族の為に道を違えた久蔵に対し熱い説教をした。
この男、笑わせもするが泣かせもするので目が離せない。
話を読み進めるごとに、長屋の住人と自分の万造に対する印象が同調していくような気がする。
何故こんな男がモテないのか?とも思ったがよく考えれば内面を知る事が出来るのは読者と、万蔵と付き合いの長い松吉くらいのものである。
万造に家族が出来たら前述のまよいごの時と同様に、清く正しい人間に変化してしまいそうなのでこのままでいて貰いたい。
聖庵堂で働くお満さんとは会うたびに結構な言い合いをするが、言い返してくるお満が結構気に入っている様子。
第六巻の【やぶへび】では、病に罹ったお満を救わんとして筑波に向け駆け出した。
ここ一番で格好良い行動を取る男である。
松吉
酒屋の奉公人で、万造と同い年の27歳。
馬が合うのか大体いつも一緒に行動している。
手癖が少々悪いようで、それは飼い猫のミーちゃんにも継承されている。
一方、店の空き瓶から少量の残った酒をかき集め一升の酒にするといった努力家でもある。
第四巻【おいてけ】では、一緒に河童捕縛に乗り出した万造を、河童出現にびっくりして川に突き落とした。
万造もびっくりし過ぎてそれどころでは無かったが、友情とは時に脆く儚いものである。
万造との掛け合いは見事なものであるが、小道具に五日洗ってない褌を差し出す等けっこう雑な扱いをしている。
万造と似て、威勢は良いが優しさを併せ持つ。
辰次
魚屋を営む22歳。
年下なせいか、万造・松吉には結構振り回されているが、時に一緒になって騒動を巻き起こしたりもする。
爽やかな好青年といった印象。
とある事が切欠で、端歌の才能が開花した。
ここ一番という時には万松に対しても引かない胆力を発揮する。
第六巻【とうなす】では金太の見合い相手を乗っ取る計画を万松達と企て、抜け駆けしたら許さんと凄み万松をビビらせた。
金太
八百屋を営む23歳。
与太金、馬鹿金、抜け金という名を欲しいままにするちょいとおつむの足りない子。
それゆえ万松に都合よく利用される事が多い。
第二巻【つじぎり】では辻斬り退治の囮として、乙な夜鷹が居ると騙され三日の間端の付近を歩き続けた。
第五巻【ねのこく】肝試しには乙な女の裸踊りがあると騙され参戦。知らぬが仏とはこのことで、幽霊に手拍子したりと一人だけ楽しそうにふるまい、参加者の度肝を抜くこととなった。
だいたい女性関連のネタで騙される事から、欲望に忠実過ぎる男である。
結構やりたい放題されている様子だが、【つじぎり】では背中に鍋を背負うのが粋な男とも教えられ、それが功を奏して無事に済んでいる。
騙すにしても無事に済むようにとの思いやりも見受けられることから、金太も警戒することなく毎度騙されているようである。
騒動に巻き込むのも万松の優しさ、とは鉄斎の弁。
生来のほんわかとした人柄のせいか、接する人が世話を焼いてくれる特殊能力持ち。
作中で悲しんでいる時を見た時が無く、なんとも幸せな人生を歩んでそうで羨ましい男である。
お染
おけら長屋に越してきた訳ありの未亡人。36歳。
裁縫が得意で、針仕事をして生計を立てている。
かつて盗賊丑三つの風五郎の情婦をしていたが、罪悪感から火盗改に自ら出頭し、一味捕縛の手助けをする流れでおけら長屋に越してきた。
久蔵に告白されたが、びっくりして断った模様。
徐々におけら長屋に染まってきている。鉄斎とは気が合う様子。
おけら長屋のご婦人の中では唯一安心して見ていられる貴重な存在。
第十一巻、ぬけがらではお峯としての過去を知る事が出来る。
お染さんを知るには欠かせない話であり、知る事で彼女の人物像に深みが増す事となる。
過去の出来事を真っ向から受け止めたからこそ、今の強く優しいお染さんが居るのでしょうねぇ。
個人的には鉄斎さんとくっついて幸せになってほしいひと。
卯之吉
お梅ちゃんのおとっつぁん。表具師で40歳。
娘のお梅の身に起きた事が知れた時、なんとも格好いい言葉で家庭に希望をもたらしたナイスガイ。
お千代
卯之吉の奥さん。36歳。
前述の卯之吉の発言に、惚れ直した模様。
夫婦そろって、娘を守る決心をする。
八五郎
左官をしている43歳。お里さんの旦那でお糸さんのおとっつぁん。
万松からは目上という事で慕われているようで実は馬鹿にされているような微妙なポジション。
話が進むほどにイメージの悪化が著しい人物。最初は年上の常識的な兄貴分かと思ったが、あっという間に坂を転がり落ちた。
最近では万松の領域に足を踏み入れつつあり、馬鹿の代名詞が万松から八万松へと巷の評価が変化。
万造と同じく字が読めないが、腕のいい職人であるために必要ないとは周囲のフォロー。
万造に地獄に仏と言われて怒り出し、飛んで火にいる夏の虫と言い直されて、ならいいんでぇ、なんて言っちゃう変わった感性の持ち主でもある。
万造と八五郎の掛け合いに松吉はいつも肝を冷やしている。
どうやら万松は自分たちを上回る馬鹿として崇拝している節がある。
かなり勝気な性格だが、幽霊や河童といった類はダメな様子。
頭は悪いが、情に厚くて気持ちが立派。
他人の事情を斟酌して慎重に行動する事も出来ることから、どうも万造達と絡んだ時だけ馬鹿になっている気がしないでもない。
『おとっつぁん』としては最高の男。
娘のお糸の恋路やら嫁入りやらの話では父としての顔を存分に見せてくれた。
娘のお糸が嫁入りする際、子供が生まれたらおとっつぁん達のような親になるとまで言われた良いおとっつぁんである。
たまにびっくりするくらい格好いい言葉を発するので侮れないのは万松と同じ。
第十一巻、らくがきでとうとう八五郎がやりやがった!
八五郎の教えを守り、武士に対して己の筋を通した多吉を守る為、自分も筋を通す…命を懸けて。
この男、本気も本気で屋敷に落書きして御手打ちになるかも知れない多吉を守ろうとしやがった。
実際、屋敷の手前で鉄斎が気絶させなければ本気で屋敷に乗り込んでいたであろう。
幽霊は怖いくせに、守りてぇ他人の為に死ぬのは怖くねぇとは…か、カッコいいじゃねぇか…!と、いうわけで文句なしに十一巻のMVPを捥ぎ取った。
男 ってえのはな、 てめえがやったことには、 けじめをつけ なきゃなら ねえんだ。 よく覚えておけ
畠山 健二. 本所おけら長屋(十一) (PHP文芸文庫) 株式会社PHP研究所. Kindle 版.
かっこいいなぁ~!あんまり褒めると調子に乗りそうなとこも今となっては魅力だわいな!
巻が進む毎に好きな人物が増えていきやがるってんだから…おけら長屋は忙しくていけねぇや
お里
八五郎の奥さんで、絹問屋で女中をしている。41歳。
万松には八五郎とどっこいどっこいだと思われているふしがあり、似たもの夫婦。
秘密と言いながらもまんまと酒を勧められ、酔っぱらって全部聞きだされてしまうなど、万松にとってこの夫婦の扱いは慣れたものである。
お糸の祝言の為に形見の根付を売って金に換えるも、2分で売った品が2両はくだらないと知らされて卒倒しそうになった。
お馬鹿っぽいが、やはり筋が通った考え方をしているので良いご婦人だ。
お糸
鳶が鷹を産んだかと言われそうなくらいまともな女の子。あの長屋で良くぞ普通に成長した。普通が一番。
八五郎の弟弟子で大工の親方をしている文七とのじれったい恋模様を展開するが、おけら長屋のお節介にて無事ゴールイン。
聖庵堂で働くお満さんとは仲良し。
与兵衛
乾物屋である相模屋の隠居。
もと商売人だけあって、知恵が回る。
第一巻【だいくま】では形成不利とみるや一人湯治に出かけて姿を眩ました。
知識自慢が好きなのか、そこを突かれると弱い。
島田鉄斎
43歳の浪人で、嘗て陸奥国津軽の黒石藩で剣術指南役をしていたが、不幸があって剣術指南役を辞めた。
兎に角周囲の信頼が厚い人物である。
火盗改のお役人にも、かつての藩主にも頼られっぱなしで引く手数多の人気者。
黒石藩藩主、高宗にはいつでも戻ってこいと言われているがおけら長屋から離れる様子はないので一安心。
そうとうにおけら長屋の環境を気に入っているようだ。
お節介に自ら進んで参入していくスタイルであり、多少ズルをしてでも人を助けたりする。
第一巻【ふんどし】では久蔵の対戦相手の目を光で眩ませて久蔵の勝利の手助けをした。ずるい。
しかし、人間性は大層立派である。同じく第一巻【かんおけ】ではスリの娘に更生させるべく手首を刀で一線。
薄い切り傷を与えその場を収めた。ちなみにこの時の娘さんは鉄斎さんに惚れた。新手のナンパか。
作中で結構な人数の心を救っている事から、生来の人誑しなのかもしれない。
普通の時代小説なら主役級の腕前と人望なのだが、おけら長屋ではちと弱いかな。万造達がやらかした結果を見てのリアクションが面白い人だ。
久蔵
呉服・近江屋の手代で22歳。
第一巻、【おかぼれ】ではお染さんに求婚までしちゃうくらい惚れていたが、気の迷いと言われて断られ傷心。
しかしその後の【ふんどし】では自ら気の迷いだったのかという程にその傷は癒えた。
直後、万松にお梅と所帯を持てと迫られ、自信の気持ちもわからぬままお梅と所帯を持つことになる。
その後、数々の葛藤を乗り越え家族思いの夫であり父となった。
そして家族思いは考え違いまで発生する程に暴走。万蔵に窘められる場面もあった。
お梅
湯屋で見知らぬ男に襲われ身籠った可哀そうな娘。
久蔵を好いていたがこんな事になってお先真っ暗。
両親は心配するなというものの、もはや嫁の貰い手は絶望的であった。
そんな事情を察してか万松がお節介を焼き、久蔵と夫婦になる事が出来た。
久蔵の様子を見るに、幸せになれること間違いなしである。
亀吉
お梅と久蔵の子。
八五郎の顔面を見ると泣き出すことから、頭が良い子になりそう。
佐平
たが屋の41歳。
鉄火場で知らずに命がけの賭けをさせられていたり、辻斬りに背中を切られたりと踏んだり蹴ったりな人。
普段は酒を飲む程度で博打を打つなんて事はしなかったが、例によって万松に唆されて手を出して、というわけである。
彼らの影響は真面目な人間を豹変させる程に達している事が伺える。
首を括ろうとしている男を見かね、鉄火場にて代わりに勝負をするという程お節介なのはおけら長屋の住人らしい性分だ。
恐らく、博打にのめり込んだ要因の一つに嫁のお咲の存在がある。
勝ち続ければ良い暮らしをさせてやれると思ったのだろう。
お咲
佐平の嫁さんで37歳。
出来た嫁さんである。
博打にかぶれた佐平を諭す際も、声を荒げることなく真っ当な事を言った。
佐平が聞く耳持たずに出かけた際もブチ切れる様子が無かったことから、これまでも夫唱婦随の日々であったに違いない。
佐平…しっかりしろい。
喜四郎
畳み職人の31歳。
葛藤も有ったが、お奈津の過去を受け入れる決心をするイケメン。
お奈津
喜四郎の嫁さんで29歳。
お笑い女房集団の一員かと思いきや、どすんと重い過去を持っていた。
喜四郎にも言えずにいた秘密は、第五巻【わけあり】にて明らかにされる。
居酒屋・三祐
お栄
万造達が通う居酒屋、三祐店主の晋助の姪で二十歳の娘さん。
晋助はあまり表に出てこないため、接客などをこなして実質的に店を切り盛りしている。
時に万松をねじ伏せる事が出来る豪の者。
なんでも思った事をズバズバっと言う性格からか、ボケに対しツッコミを入れずにはいられない。
第八巻【うらしま】は主にお栄ちゃんに焦点が当たった話である。
読み終えて確信を得たが、松吉の事が好き。
まだ何の進展もしていない、
いつもやり込められているからか、万松のいじりは結構きつめ。
この店に女らしい女といえばお冬ちゃんしか居ないと言い放ち、
お栄があたし目当てで来る客だっていると言えば松吉は完全にスルーである。
一度目は何気なく読み進んだが、お栄が松吉を好いていると思って読むとなんとも胸が痛い場面であった。
スルーから次にお栄ちゃんが言葉を発するまでの間が辛く、その言葉も精いっぱい強がったものに見えてしまう。
極めつけはお栄の今後について真剣にアドバイスをするという追い打ち。
今後、お満さんのようにお栄ちゃんの恋路が書かれたりしたら気持ちの悪い笑顔で通勤する時間が増えそうで恐ろしい。
今現在、本を開けば常に不審者なのだから。
それにしても万松の二人は威勢は良い癖に自分の事となると鈍いなっ
お冬
三祐で働く16歳の娘さん。
お冬ちゃん目当てでやってくる客もいる。
結構のんびりとした性格であり、客のあしらいはまだまだな様子。
聖庵堂
聖庵
貧乏人も分け隔てなく治療をする、医術も人物も素晴らしい人。
治療費を払わぬ万造に対し、飲み屋の代金を3割増しにさせて回収するといった策を取るアイデアは流石。
第三巻【てておや】では、頑なに父と仲直りしようとしないお満に対し、医療で必要なのは病より人の心を診る事だと一喝。
その只ならぬ説得力には理由があった。
第七巻【ひだまり】にて名医聖庵が生まれる過程が書かれている。
お満
薬種問屋・木田屋宗右衛門の娘。
かつて父と反発し合い、家を出て聖庵の元へ師事する事になる。
が、実は父が聖庵に頭を下げ、他でも色々手を回し聖庵堂に行くように仕向けていた。
第五巻【てておや】終盤ではおけら長屋総出の芝居により、父と仲直りする事が出来た。
その時の万造の啖呵に酔ってしまったのか、万蔵が気になりはじめる。
しかし出会いが最悪であったせいか、その後も結構きつめの返しが多い。
後日家で一人後悔しながら布団に頭を突っ込んでジタバタする様子が目に浮かぶ。
最近では万造の背後に謎のキラキラが見えちゃってるんじゃなかろうか。
徐々に距離が迫りつつあるような気がするが、当の万造の気持ちが判らない。
第六巻【やぶへび】【だきざる】では病に倒れてしまうが、それを聞いた万造が全部ほっぽり出して筑波に向けて駆け出した。
無事に大家の息子で本草学者の由兵衛を連れ帰った万造が格好良すぎるのでまさか…なんて思ったものである。
そして案の定、礼を伝えに行った際に笑い続ける万造を見て幸せな気持ちになっちゃうお満さん。
読者としては、お満さんの恋路は応援したい。
一方。ついにお満さんの気持ちに気が付き始めたような、そうでないような万造からアプローチが有った瞬間には別のことに気を取られて無視したりもした。
この二人は一筋縄ではいかないとは思っていたが、なんとも悩ましい人物である。
お満さんと万造の様子がわかる話は以下の通り。
巻が進むごとに破壊力が増してくるお満さんと万造さんの関係にも注目すべし。
最近では単独で凄まじい破壊力を持つまでに成長を遂げている。
第十巻、あおおに では、見事な啖呵を4ページに渡って見せてくれた。
言葉使いの師匠は万松だろうか、あの鉄斎が動揺を隠せない程の変わりように顔がにやけて戻らない。
もう誰にも止められねぇぞ!どうするんだこりゃぁ…なんて思ったもんでさぁ…。
この武勇を本人は万松に知られたくないようだ。
確かに一年は話の種にされる出来事だが、万造が見てたらば、お満さんに恋心が芽生えちゃたのではなかろうか。
第三巻【てておや】
第四巻【あかいと】
第六巻【やぶへび】【だきざる】
第八巻【こしまき】
第九巻【すがたみ】
薬種問屋・木田屋
木田屋宗右衛門
江戸随一の薬種問屋、木田屋の店主。
ケチで有名であり、そういわれるのは誉め言葉と豪語するが、使うべきところには惜しまず投資する。
徳兵衛と居酒屋で意気投合し、友人となった。
親交を深めていくうちに娘の事で悩みを打ち明け、娘が可愛くて仕方がないだけなんだと心情を吐露する。
娘との衝突の原因は、薬を仕入れる事が出来ない医院に薬を卸さなかった事であったが、実は裏でただ同然で薬を提供していたと、後に聖庵により暴露されている。
店主として、父の顔を出すわけには行かなかったんでしょうねぇ。
お満が病に倒れた際、店から暇を出される事も構わずに飛び出し、無事にお満の命を救った万造に対する恩返しはこうだ。
普段乗ってもいない駕籠で万造の奉公先であった米屋に乗り付け入店。
駕籠の様子は番頭がびっくりするほどだというのだから、一体いくら使ったのか見当もつかない。
既に暇を出された万造を褒めちぎり、奉公人40人分の米を毎月仕入れる事を約束する。
もちろん、手柄は万造のものという約束も取り付けた。
それにより万造は再び米屋で奉公する事が出来るようになったが、やはり本人はその事に触れた様子は無い。
偉人とは自らの偉業を語らないものである。
お満との仲直りの時といい、お満の命を救った事といい…万造を気に入ってる気がする。
いざ二人が所帯を持つとなった時には反対しそうにない雰囲気。
娘が可愛いなら反対するべき物件だと思うのですよ万造さんは。
だるま長屋
栄太郎
事あるごとに万造に突っかかってくる同年代の男。
実は万造との喧嘩が好きでしょうがない。
第八巻【まいわし】にて、いつものように万造に突っかかって行った所、
争いを避けようとする赤岩兵介の話に感銘を受けた万造に受け流され、涙を流して駆け出した。くやしいのう!
ゲスト
円太郎
小間物問屋、永美堂の主。
顔も体もでかくて厳つい。
それでも止められない程に化粧をするのが好き…というか女装癖があり、人には言えず悶々とした日々を過ごしていた。
たまに吉原に出かけ、馴染みの女郎、筑紫を隠れ蓑にメイクアップ。
筑紫熊の異名を持つこの女性も、最初の頃は化粧した円太郎を見ただけで気を失いそうになったという。
一体どんな姿なのか…?
気まぐれに凶悪やアウトレイジで強面を発揮したピエール瀧を想定して読み進めたところ、地獄の釜の蓋が開いた。
おまけにそのままイメージが固定されてしまったのでお勧めは出来ない。
趣味はアレだけど本人は極めて真面目というのが円太郎さんの強みでもある。
腫れ物に触れて良いものか…と、筑紫のように戸惑う様子が面白い。
筑紫と自分だけの密かなお楽しみで我慢してれば良いものを、化粧した自分を誰かに見せたくなったらしい。
溢れる情熱は誰にも止められない
そこで白羽の矢が立ったのが太鼓持ちで江戸を生き抜く幇間の一八だ。
かくかくしかじかで酒の席を用意しろと言われたその時に断ればいいものを、小遣いに目が眩んで引き受けたに違いない。
どう考えたって無茶である。
鬼に金棒、虎に翼、歩く姿は大魔神。ちやほや…ってそんな奴いないよ!どうすりゃいいの?
で、苦肉だか毒肉の策だかで選んだ相手が八万松。
多分、算術でマイナスにマイナスを掛けたら…プラス!とかそんな閃き。
こんな流れで、笑ってはいけない芸者遊びという地獄の窯の蓋が開く事となった。
八万松も褒めて持ち上げろと言われているので、皆最初は頑張ってはいた。
しかし胸に沸き上がる、何処へ向けてよいか判らぬ怒りを互いにぶつけあってしまう。
化け物やら鬼やら蛇やらと、流れるように出てくる罵詈雑言。それを飛ばしあっての罵りあい。
流れ弾を喰らってへこむお円姐さん。
端から見ればここは地獄の四丁目。
しかしそんな目にあっても怒ることなく心情を吐露する円太郎。
この心根の素直さが引き寄せたのは、万造の神憑り的な企画立案能力であった。
結末は本編におまかせするとして、
この御仁、万造に並々ならぬ恩を感じていそうなので何かの縁で再登場なんてこともありそう。
円太郎の名誉の為、八五郎さんの方がヤバかったと付け加えておく。
勘吉
第二巻【まよいご】で登場。
迷子になっている所を万造に助けられる。
無事に家に送り届けられた際、小間物問屋の跡取りとして養子に貰われてきた事、跡取りが誕生したために冷たく扱われていた事が近隣住人によって明かされた。
そのため、実際には迷子では無く家出であったとわかる。
送り届けられたその日の夜に、暗い道を一人で歩いておけら長屋へ戻り、勘吉の事情を知る万造の願いと住人の協力により一緒に暮らす事になった。
万造と勘吉の親子生活は、見ていてとても暖かい気持ちになること請け合いである。
飲む打つ買うを止められないかと思われた万造が、人が変わったように真面目な生活をするようになった。
長屋の住人達からも相当に可愛がられたようである。
このままメンバー入りかと思われたが、実は養子ではなく人身売買されてやって来た事が判明。
なお悪い事に両親も鉄斎の知り合いという事まで判明してしまう。
この事実を知らされた万造の反応は、まさに勘吉の父というべきものであった。
万造の懸命な説得により、実の親の元へ行く事を了承する。
密かに再登場を願ってやまない人物。
町人では無く武士の子であったことから、
万造の窮地を救うような感じで現れたりしないだろうか?なんて考えてしまうくらい印象に残っている人物。
黒田三十郎(甲斐守高宗)
鉄斎さんとは剣術の同門で弟弟子、という設定の津軽黒石藩藩主が世を忍ぶつもりの姿。
諸事情により鉄斎が藩を辞することになった際、いつでも戻ってこいと声をかける程に鉄斎を気に入っている。
その鉄斎が近所に居ると知って、普段口うるさい工藤惣二郎が留守の隙におけら長屋に出向いたのであった。
顔を直視した長屋の乙女たちが旦那そっちのけで奪い合いをするほどの様子のいい男。
酒を振舞われた際に酔って設定を忘れてしまい、普段通りに会話をしたところ大うけしてしまう。
以降は殿様と呼ばれる事となるが、実際に殿様なのだから洒落にならない。
しかし本人は取り繕う必要が無くなってご満悦。
お供や鉄斎は殿様と呼ばれるたびに冷やりとする始末。
この男、とても良い藩主である。
家臣を思って行動することが出来る殿様であり、その為なら自尊心を押し殺してまで他人に頭を下げたりできちゃう男なのである。
登場するたびに藩主として成長していく殿様の姿が見られるので、注目に値する人物。
そんな殿様の活躍が見られる話は以下の通り。
第弐巻【こくいん】
第五巻【はるこい】
第九巻【まいわし】
清水寿門
第壱巻【もののふ】に登場。
父の仇を討つべく旅をして三年、江戸で行き倒れたところを万松に助けられる。
実は剣の腕はからっきし、確信を持ってるのは仇と対峙したら自分は死ぬんだろうってんだからなんとも頼りない人。
それでも仇が現れたら立ち会うのだという。
家、母、嫁、そして武士の面目というしがらみに雁字搦めでどうにもならず、
仇と立ち会って死んだ時に全てから解放されるなんていう、うつ病になっていてもおかしくない状況。
とても気の毒である。
そんな彼が、決闘する二人の若者をみて、我が身を顧みず彼らの前に立ちはだかった。
自分の命は投げやりだった癖に、他人が命を無駄に散らそうとするのをみて刀の前に飛び出す寿門。
二人の姿に自身を重ねたか、ここで彼は涙ながらにとても熱いセリフを放つのである。
まさに魂の咆哮と呼ぶに相応しい場面は必見。
その後武士を辞める事を決意して帰郷。
時は流れ第八巻【ふところ】にて、町人、寿三郎となって万松の前に現れた。
蕎麦屋を始め繁盛しているようである。
千早
第五巻、ねのこくに登場した、なんとも悲しい過去を持った人。
ごく普通の幽霊であったが、おけらの連中の騒動に巻き込まれることで一歩踏み出すこととなる。
イタコの老婆の力を借りて語られた幽霊になるまでの経緯は、万松もご立腹の内容であり、おけらのお節介を引き出すこととなった。
おけら流の供養にて、無事に大願成就。
12年の間探し続けた我が子と出会い、共に成仏していった。
第八巻【こしまき】に登場する北橋長屋に住む名もなき夫婦
名前がわからないのが残念な程に面白い夫婦である。
もし万松のどちらかが女性で、二人が夫婦だったらこうなると言われたら納得してしまいそうだ。
これほどの逸材が一節で姿を消すとは…八五郎・お里夫婦に匹敵する似た者夫婦。
政五郎
江戸の火消しで に組の纏持ち。
10巻表紙で描かれているのはこの男だろうが、2巻の万造とは気合の入り方が違う顔立ちである。
様々な描写で記述されているが、一言で現すならば身も心もイケメンな男盛りといった所だろうか。
男女お構いなしに惚れ惚れするような男前であり。
当然の如く長屋のお笑い婦人会も放ってはおかなかった。
亭主の面前で政五郎にのぼせあがったりさえして見せる程の熱の入れよう。
夫婦間の揺るぎない信頼が有ってこその行動だと考えるが、亭主持ちにそんな事させちゃうくらいイケメンなのである。
ご婦人達の様子から察するに、黒田三十郎こと殿様よりかっこいいのは間違いない。
それくらいご婦人達は酷い有様になった。一言で表現するとタコである。
そんな政五郎はとある出来事により江戸を去る事になってしまうのだが、最後まで纏持ちとしての矜持を守り続けた生きざまは天晴れだと言える。
江戸っ子の鑑のような男であった。
若芽錦之介
阿波国徳島藩の勘定奉行という将来が約束され、とどめに文武両道で背が高くて端正な顔立ちという完全無欠なこの男。
これで性格までいいんだから参るよなぁ…出てくる作品を間違えたんじゃありませんか?と言いたくなるような若芽錦之介がいったいどうしておけら長屋に関わる事になったのか。
それは酒を飲み過ぎての失敗。
大の酒好きだが強いわけではないときた。その上本人は酩酊中の記憶がないってんだから質が悪い。
錦之助にしてみれば青天の霹靂だったに違いないが、金を出すから許してくれなんて泣きながら言う爺さまもでくる始末。
いったい錦之介は酔っぱらってどうなるんだろう。
そう思ってるうちに我ら読者はその酔いっぷりを知る事になる…。
一杯で錦之介のスイッチを入れる松吉努力の結晶ブレンド酒の威力も凄いのだが、その後10頁程続く酔狂なんて言葉では表現しきれない痴態にこちらが酔いしれる事になるだろう。
おけらの住人をはじめ、読者までも笑いの渦へ引き釣り込んでやりたい放題の大暴れだ。
飲んで酔ったら放送コードとか関係ねぇのである。
天狗の面の画期的使用法に纏わる歴史的瞬間にも立ち会える。
既に読んだ人の中には、電車内で読んで変な声を出しちまった人も少なくないはずだ。
何を隠そう、自分もそのうちの一人。
ここまで迅速に読者の人生に攻撃を仕掛けてくる話は初めてだった。
お陰でしばらく一本早い電車での通勤をすることになっちまったい。
現在出ている10冊の中で間違いなく一番危険な男である。
たった一話しか登場しないのに全巻通してのMVP。
これが、ギリギリを攻めた男の強さというものか。
理由は不明だが、ラジオ文庫ではよいよいが飛ばされている。
なんとなく朗読していられない雰囲気は感じるけども。
そんなわけで、危険な香りが漂うこの話、読むには覚悟が必要ですぜ!
お種さん
第六巻、とうなすに登場した金太のお嫁さんになっていたかも知れない女性。
万造さんの第一印象はタヌキの置物。
これは…!人物の見た目を連想出来る具体的なヒントだ。
見た目はともかく、挨拶代わりにぷーと屁をこく剛の者。
そして万造達に地獄を見せた唯一の女性。
本気で地獄だと思っていた違いない。
そんな地獄にやって来たのが金太仏であり、お種さんを見つめてうっとりしながら「おいらこの娘さん好きだ」という。
これぞ蜘蛛の糸。
元々金太の嫁にどうかと来た話、これで丸く収まるな、めでたしめでたし。
と、安心してたらお種さんが辰次の嫁になりたいとごねた。貴様…!
地獄が読者に飛び火した瞬間である。
その後、登場人物が三枚目四枚目な恋愛ドラマを見せられているかのような気分を感じる不思議な一時を過ごさせてくれた。
ただし、ヒロインお種を奪い合ってでは無く押し付け合ってという変化球。斬新。
このように、おけら長屋と相性抜群で凄まじい化学反応を引き起こす存在であった。狸の置物を見る限りでは、ダウンサイジングしたら化けるのではなかろうか?
スリムになって再登場したら、もうひと騒動見られるかも知れない。