おけら長屋

本所 おけら長屋 六巻の感想

投稿日:2017年12月8日 更新日:

 

六巻

しおあじ

お染さんの後を尾行する不審者がいた。

名前は又造、お里さんの同僚のお信さん、その幼なじみである、お恵ちゃんの旦那だ。

この説明はちょっとややこしいが、本文では分かりやすく書かれてるのでご心配には及ばない。

生まれて半年の息子正太も可愛い盛り、それなのに家に帰らずお染めさんの後をつけるのはどういったわけか?

当然、おけら長屋の連中がほっとくわけがありません。

後に明らかになる、又造とお染の関係。

ここではお染さんの過去がまた一つ明らかになります。

感想

辛い日々の中での微かな幸福、空腹の中でお峯に貰ったしょっぱい握り飯は、又造にとって幸せの味だったんだな。

いい塩梅なんて言うけど、普段ならとてもじゃないけど食えたもんじゃない代物だったろうに。

それでも忘れられないのは、その味とお峯の優しい気持ちが結び付いていたからに違いない。

なんとも感動的な昔話だったが、その後の又造の罪の告白により事態は一変。

お染の両親が火事で死んだのは又造のせいだと言うのだ。

直前まで互いの苦労を労いあっていた二人だが、そうなると話は変わってくるよなぁ…

お染さんの苦労の始まりは、両親が死んでからなんだから。

二人が生きていたら違った人生になってたかも知れない。

これは大変なことになったなぁ…どうなるんだろうなんて思ったけど、それを間髪いれずにぶっ飛ばしたのはお染さん。

なんと凄い人だろう。

確かに、又造がお縄になったら家で待ってるお恵と正太が不幸になる。

考える間もなく、『又坊は夢を見たんだよ。』と笑い飛ばしたお染さんに只ならぬ強さを感じた。

許された又造が流した涙もしょっぱかったろう。

今も昔もしおあじが優しい味になった又造、塩分摂りすぎて体壊さなきゃいいんだけど。

最後はなんとも幸せな雰囲気で終わるこの話。

そういえば鉄斎さんとお染さんは、人格的に似ているような気がする。

辛い経験を乗り越えた人間という意味で似ているのかもしれないが、密かにお似合いの二人だと思う。

ゆめとき

万造、花見行ったことないんだって!

酒飲みの万造が花見に行かないなんて、槍が降るってなもんです。

さて、その理由とは如何に。

感想

万造が見た夢は、かつての養父源吉が見せた真実に違いない。

語るのは不得意、ならば見せようということかな。

源吉の意を汲んでか、最後は万造が吹っ切れたようなのが良かった。

万造さん、捨て子コンプレックス持ってたけども気にすることはないとも思った。

かつて万造を育ててくれた源吉父、そして長屋の人たちがいるでねぇか。

17年たっても体の心配してくれるおときさんなんて、おっかさんみてぇなもんだ。

おけらの連中だって家族みてぇなもんだ。

いっぱいいるじゃねえか。

万造もそんな風に思ったのかな。

さて、源吉がかつて捨てたお友さんは二十歳の頃に嫁に行ったそうです。

そしてその五年後に万造は捨てられていた。

もしかして万造の産みの親は…なんて思った。

野暮な想像をしたもんだぜぇ

源吉が涙流して見送ったお友さんが、子供を捨てなきゃならない状況になるなんて悲しすぎる。

それに、もしかしたら万造さんがとある大名の後継ぎでしたって展開もあり得るもんな。

万造殿様か…落ちはやっぱり返品だろうな。

とうなす

八百屋の金太に見合い話が来た。

奴が長屋カースト最下位だと嘗めてた万松辰次は大慌て。

さらに金太を訪ねてやって来たのは近年まれに見る乙な女性。

これは三人のゲスが織り成すお江戸ラブストーリー。

破談です。

感想

特に悩むことなく生きていて幸せそうな金太って実は作中最強だと思う。

乙な女郎が居ると騙されて三日三晩夜をさまよい歩くタフネス。

簡単に騙されるのは素直だからなのだろうが、

背中に鍋を背負うのが粋と言われてその通りにしたおかげで、辻斬りに背中を切られても無傷だったし。

商売しようと野菜をもっていけば客が自ら仕切って商売繁盛。

世界中の皆さんの優しさが無敵の金太を作り上げていると言っても良い。

そんな金太に見合い話が来たという事で、素直におめでてぇと思ったもんです。

が、奴らは違った。

な、なんてゲスな奴らだ…!だから面白いんだけど。

見合いの場面は六巻随一のおかしさ。

金太が娘さんを気に入ったような事を言ってたので、これは万蔵達がなにもしなけりゃ丸く収まったのではないか?

あの娘さんと金太が夫婦になった後のことを想像すると不安しかないけど、金太がハッピーならそれも有りだったかな

やぶへび&だきざる

両話ともお糸ちゃんの祝言に向けての話。

メインの話はお糸ちゃんの祝言に向けての皆の頑張りですが、

資金の事で悩む八五郎を博打に誘うのが努力かと言ってよいものか悩むところだが、よく考えれば確かに頑張ってはいる。

一方、その裏で西国では新しい病が流行し、徐々に江戸にも広がっていたってのが今回のお話。

感想

恐らく流行り病とはインフルエンザ、ワクチンなんて開発されてもいない時代なので体力気力で乗り切るしかない状況。

そして病気と言えば聖庵堂。

なんとお満さんがその病に罹って寝込んだと聞いた万造は、考えるまでもなく筑波に向けて駆け出した。

この、病気のお満さんを救うために何もかもほっぽり出して駆け出すってのがなんともいえない格好良さ。

八五郎さんの資金繰りはしくじったが、こっちは見事に成し遂げたのも流石だ。

金はなんとかなるけど命は一度なくしたら返って来ないから、必死だったのだろうか。

本編では万造の筑波への旅路は書かれていないが、作品のイメージが崩壊するくらいに格好いいのでお見せ出来ないと勝手に解釈。

しかし、お満さんもこの辺までくると完全に万造に惚れちゃってますね。

それなのに『べっ別にあんたの事なんかなんとも思ってないんだからねっ』的な態度を取っちゃうのを見てニヤニヤするのが最近のお楽しみです。

万造もまた明確にお満さんへの気持ちに気付いていない様子。

これからしばらく彼らのじれったい様子を見せつけられてニヤニヤしなければいけないのかと思うとたまりません。

お満さんを助けられたのは良いけど、予想通り店から暇を出された万造さん。

やたら明るい様子だったが、もしかするとお満さんが気に病んじゃいけないと思って明るくふるまってたのかも。

いやぁ、お満さんがそう考えたらますます惚れてしまうんじゃない?

この格好良い万造に痺れちゃったのお満さんだけじゃない。

なんとお満の父の宗右衛門も万造を気に入ってしまった様子。

娘の命を救ってくれた万造への恩の返し方がなんとも粋な計らいってやつでした。

お満さんが助かってめでたし、博打の借金も返してめでたしと笑いが止まらない万造の前にお満さん登場。

笑う万造を見て幸せ感じちゃうお満さん。

それを見てニヤニヤする僕。

二話にまたがったこの話は見応えあり、幸せ有りと大満足なものでした。

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