ペケジローが一巻を読んだ各話の感想。
2巻からはこれぞという話の感想のみにしよう…。
さて、改めて読むと一話目はなんだか、登場人物に遠慮が見られる気がするなぁ。
読者の様子を伺うような感じ?
愛犬が初めて家にやって来た時のような、初々しさを感じますね。
そんな気分も今のうちだけなんですけど!
その壱 だいくま
・主な登場人物
米屋の万造、酒屋の松吉、魚屋の辰次、八百屋の金太、大家さん、大工の熊五郎とその家族。
長屋暮らしの住人には職人だったり奉公人が居たりする。
商売の足しになればと、互いに必要な物は住人同士で都合し合いの助け合い。
そんな彼らに起こった問題について、被害を受けてるもの同士で話し合おうというところから物語が始まります。
さて、大雑把に話の流れを途中まで説明しますと
集まって互いの話をしてみれば、皆が見事にやりこめられている始末。
駄目だこいつらじゃ話にならんと、隠居に知恵を借りたらば、
あいつらにものを売らんようにすればいいと名案を授かる一同。
嬉々として作戦実行してみれば、堪えた様子のだいくま一家。
よしよしそろそろ音を上げるだろうと待ってたら、当の一家が無理心中をしたそうな。
遺書にはおけらながやの文字が有り、ゆるさねぇとまで書いてある。
話し合いのところは、人物像がこれでもかと伝わる場面だと思う。
いちいち面白いから真面目に話し合ってるとは思えないんだけど、彼らは本気なんだろうなぁ…
松吉は迷信とか怪談の類に弱そう。
万造はお涙頂戴にめっぽう弱いなぁ。
辰次は真面目で人が良さそう。
金太は凄い。たった一言で全てが伝わる自己紹介。
大家さんも威厳があるっぽい様子ではあるけど、実は万造達と大差ないおつむなのでは…。
これをだいくま一家はお見通しだったのか、各自に適した方法で上手く掛け取りを逃れる手腕が素晴らしい。
一時主役はこのだいくまってやつなんじゃないかと思った程です。
さぁ、どうするだいくま!ダイナミック!ダイクマ!
なんて考えたら一家で無理心中しちゃいました。
あれっ…主役…だれ?
ここで読者ペケジローも手のひらくるり
お、おけら長屋の連中…やりおった…
完全に他の町人目線です。
いやぁ…ひでぇ奴らですね!あっ、私は関係有りませんから。という思考になりました。
しかし、話を読み終えてみたらば、手のひらをどうこうしてたのは自分じゃなかった。
自分が手の平で転がされてただけだったというのが分かります。
や、やられた…
これじゃ万造と同レベルです。畜生~!
そして感動のクライマックス…と、思いきやの展開がおけら長屋らしい。
多分、そのまま突入すれば素敵な話で終わったと思うんだけど。
ああいう風に持ってくってのが逆に乙ですね!
万造達に言わせれば、それとこれとは話が別でぇ!という事だろうか。
読み終えた後で、こいつら次は何してくれるんだろう?と期待が高まる第一話であります。二度目に読んだ時には笑える箇所が増えてると思うので、是非とも二回読んで貰いたい。
その弐 かんおけ
『かんおけ』では長屋の浪人、島田鉄斎の過去に何があったのか、そして長屋で暮らすことになるまでを知ることができる。
鉄斎の過去を知ることで、彼の発言に重さが増したような気さえする。
そんな鉄斎と、頭は無いが情けは深い、万松達との活躍も必見です。
その壱では馬鹿がバレることなく、いや目立たなかった左官の八五郎さんも登場するけど、駄目の筆頭の万松に八五郎を加え、人呼んで八万松。字面だけで震える程に馬鹿の掛け算モードです。
最初は諌める役割かと思ってた。
八五郎、お前もか…
しかし、常人では考えもつかない、考えついてもやらない方法で事態を解決するから侮れません。今回も彼らはおもしれぇ!
途中で出てくる名無しの女スリ、個人的には長屋の連中に匹敵する乙なキャラでないかなと。スリなんて好きでやってるのではないと感じられ、彼女の背景も知りたく思えます。
その参 もののふ
仇を探して江戸に来て、とうとう橋の上で力尽きた清水寿門。
万造松吉に助けられ、行き倒れた事情を話す。
仇討ち話は江戸っ子にとっては一大エンターテイメント。
応援するべと張り切る万松。
清水の出身は北国で、そういや鉄斎先生も北からやって来た。
それで万松がどうするかはお楽しみって事で。
唐突に始まる武士の熱き物語。
読み終わった後、なんだか清々しい気分になります。
その四 くものす
佐平が主役。
謎の老人が博打の事情をご教授してくれるお話。
実は神様なんじゃないかと思ってます。
その五 おかぼれ
21歳の久蔵がお染さんに恋をした。
その想いは伝わるのか?叶うのか?
万松出てきたけど大丈夫か?
その六 はこいり
お里さんが主役。
15歳の箱入り娘も登場。想像を絶する箱入りっぷりが見ものであります!
鉄斎先生もいよいよおけら長屋に染まった様子。
その七 ふんどし
人の褌ですもうを取るを見事に体現した万松の手腕が光る。
この時代のお風呂事情も書かれていますが、なるほど混浴が禁止になるわけです。
万松のお助け大暴走でまた事態が進展する今回の話、やはり最後にはじ~んとした気分で終わりますなぁ。
さて、1巻全体を見渡せば、
万松を筆頭におけら長屋の人々は困った人を放っておけないんだとわかった。
優しさいっぱいで、これでもかってくらい一生懸命に人を助けようとしている。時もある。
彼らの行動の根っこには常に思いやりがあるんだなぁ…実に気持ちの良い人々だ。
自分は弐の次参の次、困った人が壱番目という信念でもあるのか。
というと、そうでもないような…
脊髄反射のお節介とでもいうような…
しかし不思議と信頼出来る人達。
話の仕組みがどうこうよりも、出てくる人々が素晴らしい。
なんて思ってると次には『こ、こいつら…』と思わせたりするから目が離せない。
時に熱く、時に哀しく…いつも可笑しい。
そんな人々に会えるのは知り得る限りではおけら長屋だけかなぁ。
出てくる人がだいたい面白いってのはそうそうあるもんではないし。
一話ごとにどんどん引き込まれる作品です。
2018/2/3 追記↓
おけら長屋の朗読がこちらで公開されています。
大塚富夫さんと後藤のりこさん二名での朗読なのですが、各登場人物を演じる時にそれぞれ雰囲気が変わっていてわかりやすい。
小説を読むのが困難な人でもおけら長屋を楽しめる、なんとも有難いサイトです。
[…] 一巻の感想はこちら。 […]